大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(ワ)6990号 判決

原告 高橋トク 外二名

被告 国

代理人 荒井真治 外三名

主文

被告は

原告高橋トクが別紙目録符号1、2の定額郵便貯金証書につき同原告に名義書換をうけた貯金証書と引き換えに、または転記をうけた通帳の提示をうけた上、同原告に対し、金二〇万円およびこれに対する昭和三〇年一月より昭和三九年一二月まで年六分の半年複利計算による金員並びに右元利合計金額に対する昭和四〇年一月より完済の前月まで年三分六厘の一年複利計算による金員を、

原告山口キヌが別紙目録符合3、4の定額郵便貯金証書につき同原告に名義書換をうけた貯金証書と引き換えに、または転記をうけた通帳の提示をうけた上、同原告に対し、金二〇万円およびこれに対する昭和三〇年一月より昭和三九年一二月まで年六分の半年複利計算による金員並びに右元利合計金額に対する昭和四〇年一月より完済の前月まで年三分六厘の一年複利計算による金員を、

原告恩田美代が別紙目録符号5、6の定額郵便貯金証書につき同原告に名義書換をうけた貯金証書と引き換えに、または転記をうけた通帳の提示をうけた上、同原告に対し、金一〇万円およびこれに対する昭和三〇年一月より昭和三九年一二月まで年六分の半年複利計算による金員並びに右元利合計金額に対する昭和四〇年一月より完済の前月まで年三分六厘の一年複利計算による金員および金一〇万円およびこれに対する昭和三一年一月より昭和四〇年一二月まで年六分の半年複利計算による金員並びに右元利合計金額に対する昭和四一年一月より完済の前月まで年三分六厘の一年複利計算による金員をそれぞれ支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

原告らの主張事実中前記亡岡戸ヨシに原告ら主張の如き定額郵便貯金の預入があつたこと、東京家庭裁判所より原告ら主張の如き遺産分割の審判があり、右審判が原告ら主張の日時に確定したこと、右定額郵便貯金証書はいずれも前記岡戸定雄が所持していること右定額郵便貯金の元利金の計算方法が原告ら主張のとおりであることは、すべて当事者間に争いがない。

被告は本件定額郵便貯金証書が右岡戸定雄の所持にある以上、前記岡戸ヨシの相続人たる原告らは郵便貯金規則第三三条により、右貯金証書について名義書替えまたは転記の手続を受け、その上右証書の提示をなして、その払戻しを請求すべき旨を主張し、原告らは、本件の如く右貯金証書を前記岡戸定雄が占有し、その引渡しに応じない場合は右規則第九七条、第五四条第二項の「亡失」に該当するから、前記郵便局は右証書の提示なくしてもその支払いに応ずべきであると主張するので、この点につき按ずるに、原告恩田美代の本人尋問の結果によれば、右貯金証書を不法に占有している前記岡戸定雄は、原告らの要請にもかかわらず、これを同人らに引渡さないことを認めることができ、右認定に反する証拠はないけれども、本件の如き貯金証書は、有価証券ではなく、単なる証拠証券であるから、権利がその証券に化体し、その権利の発生、行使、移転が証券の占有と分離することができないものではなく、単に預金者と郵便局との間の債権、債務の法律関係を証明する一文書にすぎない(郵便貯金法第五六条、第三三条参照)ものである。従つて、前段認定の如く、前記審判によつてそれぞれ本件定額郵便貯金の権利者となつた原告らは、その権利を行使するについては必ずしも右貯金証書の占有はこれを要しないものと云うべきであるが、一方、特別法たる郵便貯金法第三七条第一項、第五五条第一項、第五七条第五項によれば、通常郵便貯金の払もどし金の払渡は通帳の提示を受けてこれをなし、定額郵便貯金の払もどし金の払渡は貯金証書と引き換えにこれをなす旨規定し、更に同規則五一条第一項、第六五条第八五条、第八六条、第九〇条、第九一条の準用する第六六条、第百条は、現在高の確認をうけていると否とを問わず、通常郵便貯金の預金者は払もどし金の即時払を受けようとするときは、所定の払もどし金受領証を作り、かつ記名調印し、通帳を添えて郵便局に提示し、これを請求しなければならない旨、また、定額郵便貯金の預金者が払もどし金の即時払を受けようとするときは、貯金証書の受領証欄に元利合計金額および住所を記載し、かつ、記名調印し、貯金証書を郵便局に提出してこれを請求しなければならず、右請求があつた場合は郵便局は必要な調査をなした上貯金証書の持参人に払もどし金の交付をする旨規定しており、而して同規則第三三条および同条において準用する第二九条によれば、郵便貯金に関する権利が相続によつて承継された場合には、戸籍謄本または相続に関する証明書および名義書換または転記の請求をする相続人以外の相続人の同意書を添えて名義書換または転記(本件各定額郵便貯金は各預入の日よりすでに一〇年を経過しているので、同法第五七条第一項により通常郵便貯金となり、同規則第三三条、第二九条第二項、第九八条第二項但書、第九九条により転記をなし得る)を郵便局に請求しなければならない旨を規定している。従つて、本件定額郵便貯金の権利を相続によつてそれぞれ承継した原告らも右貯金証書を亡失した等特別の事由のないかぎり、右各手続を履践すべき義務あるものと云うべきところ、原告らは前記岡戸定雄が本件貯金証書を所持し、原告らの引渡要求に応じないので右規則第九七条、第五四条第二項の「亡失」に該当する旨主張するので、この点につき按ずるに、右規定が貯金証書の亡失の場合の無証書による払戻の手続について定めるのは、他に右証書の占有を取得する方法の全くない債権者を救済する真にやむを得ない特別の例外措置と解すべく、前段認定の如く本件貯金証書を前記岡戸定雄が所持することが明らかな本件の如き場合にあつては、原告らはその証書の占有を同人より取得して(成立に争いない甲第一号証によれば、前記審判書の主文には、本件貯金証書は、それぞれ原告ら主張の如く原告らが取得し、かつ、相手方岡戸定雄はこれをそれぞれ原告らに引渡すべき旨の記載があり、右審判書が確定したことは前段認定のとおりであるから、原告らは右審判に基づき右岡戸定雄に対し右証書の引渡の強制執行をなし得る。家事審判法第一五条参照。そして、右強制執行をなすも、なお、右証書の占有を取得し得ない場合には、前記「亡失」の問題が起るであろう。)前述の各手続を履践の上前記郵便局に対しその払戻しの請求をなすべきであり、かかる場合には右郵便局は勿論その請求に応ずべき義務あるものといわねばならぬ、かく解することによつて、はじめて、全国に多数の郵便局を擁し、無数の預金者と取引をなす被告の二重払の危険の防止と能率維持が可能であり、郵便貯金を簡易で確実な貯蓄の手段としてあまねく公平に利用させることを得るのである。

然らば、被告は原告らが本件定額郵便貯金証書をそれぞれ右岡戸定雄から取得して、右規則第三三条および同条において準用する同第三〇条、第三一条、第九九条による名義書換または転記の手続を履践した上、右各貯金証書または通帳を郵便局に提出または提示し、右郵便局は右証書と引換えにまたは右通帳の提示をうけてそれぞれ原告らに対し前記請求の趣旨記載の如き定額郵便貯金元金とこれに対する郵便貯金法所定の利息の支払いをなす義務あるものというべく、原告らの本訴請求は右の限度において理由があるので認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決し、なお仮執行の宣言についてはこれを附するのを相当と認めないから同宣言の申立および仮執行免脱の宣言はいずれもこれを却下することとする。

(裁判官 中島恒)

別紙(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例